2015年12月29日火曜日

雪菜、恐ろしい子

かずさの過去を知った春希は早速翌日に第二音楽室に向かう。
かずさが黒鍵のエチュードを弾くのを聴く春希
そんななか、かずさが春希の存在を忘れピアノに熱中しているところで春希の「シカトの権利」という言葉と共に回想に突入する。

気になった会話を一つ

「とりあえず『峰城大に進学』って書いておけばいいんだよ。
何も書かないよりよっぽど放っておいてくれるぞ」
「行かないし、絶対」
「嘘はつきたくないのか?…意外と誠実な奴だな。見直した」

この作品を通してだが「誠実とは何か、誠実であるべきか」が一つのテーマになっており。
春希が誠実という言葉に掛ける気持ちは大きい。
適当な奴でありながら嘘をつけば楽できるところで自己を貫き通す、
そんな誠実なかずさの主張を春希は見逃さなかったし、やはり評価した。

かずさは春希に「おまえのことをシカトするが気にするな」という旨の発言をするが、
春希は「冬馬も俺がしつこく話しかけても気にするな」と返す。
春希のウザ頭の良さが発揮された返しだが、この日からかずさは春希の挨拶を許すようになる。

春希はかずさの二年間を知ったことを打ち明ける。
真人間であるところの春希にかずさの孤独を理解できるはずもなく、
春希はわかったような口で説教を始める。
かずさは勿論春希にキレて春希を第二音楽室から追い出してしまう。

icでは「シカトの権利」のように一見ネガティブなようで親密度があがるようなやりとりと春希とかずさの人間的な部分のすれ違いの両方が描かれている。
勿論我々は上から見ているから様子を客観的に見れるが、春希としてはときどき仲良くなれたと思えば、いつも通りにしているのに逆鱗に触れていると思っており、なかなか距離を掴めずにいる。
やはり順風満帆に行かない二人だからこそ重要な場面でもすれ違ってしまうのかもしれない。


この後雪菜に会いに行く春希、流石の主人公である。
本当はキーボードはまだメンバーになっていないことを打ち明け、雪菜がバイトを辞めたことが明らかになる。
キーボードは冬馬さんじゃなきゃダメなのかと問いかけられ、小木曽だって冬馬が良いだろと返す春希に雪菜がボソッと

「あの時は、まさかここまで特殊な条件月だとは想像してなかったというか…」

この台詞は難聴パワーで春希には聞こえていないが、ここからやはり春希だったからこそボーカルを受け、この文化祭を通して春希に近づこうという意志がほんのり伺える。
まさか別の女が出てくるとはっといった具合ではなかろうか。

春希は自分ではなぜかかずさに話が通らないことを認識し、話をするには雪菜が適任だと判断する。しかし、遠慮が勝りそうとは言えず自分が言うと伝える。
後に顕著になる春希の正解を導いた後に間違った道を選ぶという性質に対する伏線と言えるかもしれない。

ここで折衷案として「雪菜の二年間」というネタでかずさを釣れないかという提案をする。
雪菜はもちろん嫌がりこう言う

「だ…大体、あれはわたしと北原くんの、二人だけの…」

雪菜が心を許したのは春希だけであり、特別な存在にしか知られたくないということで、
またそれを春希の特別な存在に知らせたいというのは皮肉な申し出に見えるはずだ。

そんな手段を使ってでも引き入れようとする冬馬とやらは何者なのか。
雪菜は核心に迫った所

「俺のギターを、初めて真面目に聞いてくれた奴だから」

顔を合わせずに演奏した時のことかと尋ねられ、いや夏休みの時という台詞と共に回想に突入する。


夏休みの音楽室で練習する春希のもとにかずさが現れ下手だと茶々を入れる。
努力、流した汗の量こそ大事なんだとご高説を垂れる春希にかずさはギターを手に取り
かっこいいフレーズを一弾き、春希は自分の才能のなさに絶望した…と言うがかずさはこう返す。

「才能じゃない。練習。あんたの言うとおり、流した汗の量」

かずさのレッスンが始まるが、かずさから初めて声を掛けられたことを話題に上げる春希
かずさの照れ隠しとともに回想終わり


場面は雪菜との会話に戻るが、春希のいつもの別の女にノロケが発動。
性格が悪いだのスパルタだの行った挙句、最後には持ち上げる。
雪菜は無言で相槌を入れながらも春希のノロケに苦痛を感じている模様。

春希は拘っているようだが春希にとって冬馬とは何なのか、その疑問がこの春希の口ぶりから晴れ、春希はかずさのことが好きだということを雪菜は察する。ここで雪菜

「わたしのこと…冬馬さんに、話してみてもいいよ」

この発言、一周目ではさらっと流したが、今聞くとかなり意味のある発言に見える。
この発言の前に春希は雪菜に別の女のノロケ話をし、春希はいつもこんな調子なのかと雪菜が聞いた所そんなことはないと聞き出している。
もちろんかずさのことが特別だというのはあるだろうがこの性質が発揮されて春希がかずさに会った時に自分(雪菜)のことをこんなに楽しそうに話すならば春希の隣には自分だっているんだということを示せると考えてやったことだとしたら雪菜は恐ろしい女である。

春希にありがとうと言われ「うん…頑張ってね、春希くん」と返した後の「………」という雪菜の沈黙からもこの雪菜としては素直に話していいといったわけではないというニュアンスが感じられる。